アイドルになれないなら死にたい

東京ドブ川ストーリー

「すみません」

帰り道、コンビニに寄るためいつもとは違う道を歩いていた。線路沿いの道、鈴虫の鳴き声、前から台車を押してくる女の姿。その女とすれ違う瞬間、声をかけられた。
すみません、駅はどこですか。
私は女の顔を見て駅までの道を教えた。今思い返すとその女の目は少し濁っていた気がする。
ありがとうございます、と女は微笑み、私が言った通りの道を歩いていった。
台車、女、濁った目、駅。
しまった。私はとてつもなく恐ろしいことをしてしまった。
しかしもう今更どうしようもなかったのだ。
そう、タイムカードを切り忘れたのだ。