メデューサの恋
目があうと石になってしまうで有名なあのメデューサはその昔、たいそう美人だったそうな。
自分の美貌に自惚れ、どっかの美人をバカにして逆鱗に触れたため、あのような姿にされてしまったという。
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あたいだってね、若い頃はそりゃあー美人だったのよ
それが今はこんな。自らの美貌に自惚れた罰なんだってさ。
惨めなもんよ。ちょっと自惚れた程度でこんな叩かれるなんて。
いやねー世間は厳しいわ。出る杭は打たれまくる。へし折れるまで打たれまくる。
あーあ、やんなっちゃう。
なーんもいいことないわよ。まったく。
あたいにだって好きな人くらいいたんだからね。でもそんな好きな人を見つめ合うことができないのよ。
だってあたいを見た人間は石になっちまうんだからさ。
あー辛い。あー辛い。めっちゃイケメンと思う存分見つめ合いたいわ。
まあ、美人だったんだからいい思いもそりゃしたわ。今度見せてあげるから、数多のラブレターやらプレゼントやらを。
そこらじゅうの男たちが私を一目見ようと他の村から遠路はるばるわざわざ来たりね。ちやほや、ちやっほやされたわよ。
生まれ落ちた時からブスの女よりかはいい経験いっぱいさせてもらったけどね。
でも見なさいよ、あ、見ないで、石になっちゃうからあんたがさ。
今じゃこの通りブスよ。ブスっていうかもはや人間じゃないんだから。
どうしようもないわよ、一人で寂しく死んでいくわよ。
あー、思いっきり誰かに愛されたいわ。
思いっきり誰かを抱きしめて、抱きしめられたいわ。
石じゃない誰かをね。
好きなやつを石にしてしまえば、いつだって眺め回すことだってできるんだけどさ、
でもね、冷たいの。知ってる?あんた石を抱きしめたことある?
しかも石って熱しやすく冷めやすいのよ。
私の体温で人肌にあっためてもすぐに冷たくなっちゃうの。
んでさあ、まあ私のこの醜悪な姿を見た瞬間、石になっちゃうわけでしょ。
それがまたひどい顔してんのよ。絶世のイケメンもひっどいブッサイクな顔してんの。
泣けてくるわよ。
ただ、誰かを愛して、愛されたいっていう人間の本能に従いたいのに、それが今じゃできないんだから
変な話よね。こんな話聞かせてごめんね
でもほら、ずっと一人でしょ?たまに寂しくなるのよ。
またきてよ、石に話したって張り合いないんだもの。
こうやって生身の人間に話して、なんらかの反応が欲しいんだもの。
ねえ、ちょっとでいいから抱きしめてくんない?大丈夫よ、
多分大丈夫。私と目を合わせなきゃ石になんてならないから。
なんか戻れそうな気がするのよ、
あのカエルに変えられてしまった王子様や、野獣に変えられてしまった王子様が、美女のキスで元の姿に戻ったようにさ、
あたいも誰かに抱きしめられたら元の姿に戻れるような気がするのよ。
なんでおとぎ話ではそういう醜悪な姿に変えられるのって男なのかしらね?
こんな醜い姿に変えられた女ってのあたいくらいじゃない?
おとぎ話に出てくる女ってのは元から美少女なわけじゃない。
だからキスで王子も目覚める。キスで元の姿にも戻れる。キスで失明すら治る。
なんであたいはそういうお姫様や美女じゃないんだろうね。
あーなんであたいは幸せになれないかなー。
あー寂しい、寂しい。
舌を噛み切って死んじまいたいけど、まだ心のどこかで、幸せになれるだろーうって信じちゃってる自分もいるから
嫌だわ恥ずかしいわーあー死にたい死にたい。