アイドルになれないなら死にたい

東京ドブ川ストーリー

愛を与えよう

私には2つ年上の姉がいる。そんな姉は私の今の歳にはもう結婚していて、子供も1歳になった。私はシスコンだ。シスターコンプレックスだ。姉が大好きなのではない。ただ、単に、コンプレックスを抱いている、姉に。

姉は恋愛至上主義だ。姉は自分がかわいいと思ってやまない。同じ製造工場で生産されたはずなのに、確かに姉のほうがかわいい。

姉はたまに上戸彩に似ている。たまに大島優子に似ている。たまに指原莉乃にも似ている。
父は、姉に似ているからという理由で大島優子を待ち受けにして、AKBをソファで聞いていることもあるくらいだ。

姉はかわいい。同じ製造工場で生産されたはずなのに、私とは全然違う。思考も。なにもかも。

姉には生まれた頃に買い与えられたあっくんというクマの人形がいた。
今は毛並みがぼそぼそしているがどこか可愛げがある。私はその人形に触らせてさえもらえなかった。姉はその人形を今も大切に、嫁ぎ先へと持って行っている。

私には生まれた時から一緒にいる人形なんてなかった。そんな人形を買い与えられてはもらえなかった。
全部姉のお下がりだった。かわいい姉がいつもピンクを選ぶから、私は色違いの青や緑を与えられた。ある時などは、姉はこっちを選ぶだろうから私はこっちを選ぼうと思っていた。

私はせめて、私だけでも愛そうと、なんの変哲もない人形に当時好きだった男の子の名前をつけた、またある時は当時仲の良かった女の子の名前をつけた。

私はその人形をたいそうかわいがった。とても大切にした。買い与えられなくたって、生まれた時から一緒にいなくたって、私は大切にすることができる。

姉に子供が生まれて、愛おしそうに抱っこし、言葉をかける姿を見て、
私もあんな風に愛でてみたいと思った。

そんな私はある日の仕事帰りに予算の2倍の人形を池袋西武で買った。姉が買い与えられたと同じクマの人形だ。すべてが手作りのドイツ製の、クマの人形だ。

2015-10-30

それはかなり前の話しだが、そのクマの人形には未だに名前がない。

5年以上前の誕生日プレゼントに愛が欲しいと言ったらクマの形をした抱き枕を友達から貰ったことがあった。それも当時好きだった人の名前をつけた。私は未だにたまに抱きしめてはその人の名を呼ぶ。

しかし人形は抱きしめ返してはくれない。問いかけにも応えてはくれない。

私は、本当は抱きしめてほしいのに、私は、いつだって抱きしめるばかりだ。

私は、何かを誰かを、人を、人間を、愛することができるだろうか。

私は、愛したくてたまらないのに。

駅前に一人、人形にひたすら言葉を投げかける老婆の姿が。
その人形こそ、あの人形であった。名前のない、クマの人形であった。
そしてその老婆こそ、私であった。

とならぬよう、私も誰かを手放しで大いに愛したい。愛していきたい。