アイドルになれないなら死にたい

東京ドブ川ストーリー

くつをはきかえよう

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写真はかつて私が愛用していたジャックパーセルである。
たった3年履いたのみだがこれだけボロボロになってしまった。
私が乱暴に扱ったのか?いいや、違うよ。
私は大切に履いていたよ。
晴れの日も雨の日も病める日も夏の暑い日も冬の寒い日もこの靴を履き続けたよ。

なにせ、私はこの靴しか持っていなかったのだ。どんな格好にもこの靴を履くしかなかったのだ。

私がこの靴を履き続けていたことにとくに理由はない。
愛すべき、しかし憎むべき男友達に「中学生の体育館履きみたい」と言われたり、
最近彼女に靴を買ってあげたという男友達に「かわいそうだから靴を買ってやろうか?」と言われたり、
3.11の時に下ろした靴、という思い入れがなきにしもあらずだが。

私は現在
ヒール4足
スニーカー2足
ビルケン1足
サンダル1足
を所持している。昔比べれば随分とヒールが増えた。
昔、と言ってもスニーカー1足しか持っていない頃に比べれたらだが。

かわいい子はたくさんの靴を持っている。(なんなら箱まで取っておいてある。)
私が驚愕したのは、大学生のとき、スニーカーを一足も持ってないから一緒に買いに行こうって誘ってくれた子がいたことだ。
その子は白い白いコンバースのハイカットを買った
私はそんな彼女を汚いスニーカーを履きながら眺めていた。この世の中にスニーカーを持ってない女性がいるなんて!

一人の人に尽くしきりという意味では一足の靴を履き続けるということはいいことじゃないか!
とっかえひっかえ毎日靴を変えるような女はきっと浮気性に違いない!
というのはただのこじつけ精神論である。しかし私はそう思ってやまなかった。でももうその精神論は捨てた。
何を意固地になっていたというの私。

私は今やっと、やっと、やっと、ハイヒールを履ける女になった。
最近、8cmのハイヒールを買った。ふらふらと足を痛めつけながら、たまに転んだりもしながら私は歩く。
昔買って押し入れにしまい込んでいたヒールも引っ張り出してきた。

日々靴を変えるということは、日々新たな気持ちになれる、気がする。
かつて私が嘲笑った女の子たちはかわいい靴を履いて、楽しい場所へ繰り出して、日々楽しそうにしている。

ふらふらだっていい。外反母趾になったっていい。親指の爪めくれたっていい。
そうやって女であることを武器に、新しい靴で新しい場所へ、まずはフットワークを軽くしていくことから始めよう。