アイドルになれないなら死にたい

東京ドブ川ストーリー

わたしのしたいしたい

私の中にうず高く降り積もっていく”なれなかった”私”の”死体”。
あれをしたかった
これをしたっかた
私のしたい死体たち。
わたしのしたいしたい。

中学生のとき
今から考えるとあまりに短い帰り道を一緒に歩きたかった。
ちょっと遠出して池袋なんかで映画を見たかった。ジュース高いねって、ポップコーンも高いよって、でも買っちゃおうって言いあいたかった。
手をつなぐということでさえ一大事でキスなんかした日にはそりゃあ他の女子に言いふらしたかった

高校生のとき
お金がないけど、家にもいれないからって、ファミレスで延々しゃべってまだしゃべり足りなくってそのあと夜の公園でいちゃつきたかった。
地域で一番栄えた駅に行って一緒にショッピングをしたかった。こっちのほうがいい、これもいい、でもお金ないから見るだけねって。
そのあとクレープとか食べたかった。
なんてことのない日にお揃いのだっさいキーホルダー買いたかった。これ、一生大事にするねってEAST BOYの通学カバンにつけたかった。

大学生のとき
仲良く大学構内を歩いて、周りからみられるのも気にしないで公認のカップルになりたかった。
彼の一人暮らしの家に入り浸って、また泊まったの?本当仲いいねえって友達に言われたかった。
バイトがんばったから今月余裕あるし、水族館にも行こう、おいしいものを食べに行こう。占いにも行こう、そういいあいたかった。

社会人になってから
仕事でなかなか会えない日々を潜り抜けて、会えないのは辛いよなんて泣き言言って、じゃあ一緒に暮らそっかって抱きしめあいたかった。
記念日にはレストランでちょっとお高めの食事をして、プレゼントは内緒じゃなくて一緒に買いに行きたかった。

わたしのしたいしたい。
私はわたしのしたいを、海に沈める埋める。
私の中の海に深く、沈める。

わたしのしたい死体たち。かわいい死体たち。
いつかな、いつかな、って
返り咲くかわかんないような枯れた花に水をやり続けるように。
たまに揺り動かして起こしてあげなきゃ、どんどん腐っていくから、
そうだここも行きたかったんだよなってガイド誌を読みながら同調してやる。
ぷかぷかと浮かぶ私の死体たち。
できなかった、なれなかった私という死体たち。

私のしたいしたい。かわいいかわいいしたいしたいたち。

そして9月。
夏の日差しを浴びて温まった私の海の中。
私のしたかったしたいたちが蘇り始める。色を付け出す。いっせいに泳ぎだす。
私のしたいしたいたちは、私になる。私の中で泳ぎだす。