アイドルになれないなら死にたい

東京ドブ川ストーリー

しょうこは知らない

しょうこは知らない。未来を。
本当の、未来を。

しょうこは知らない。かわいいって言われて、自分に自信のないあなたは、私のどこを見て言っているのだろうと、疑う。
本当の自分をわかってくれていないなんてバカなことを思っている。
しょうこは知らない。かわいいって言葉に別になんの意味もないことであっても、好きな人から言われるとどんなに嬉しいことかを。
しょうこは知らない。

しょうこは知らない。髪をのばせ、と言われる真意を。
髪を伸ばすことによって芽生えるアレンジ力やトリートメント能力からはぐくまれる女子力があったということを。
しょうこは知らない。

しょうこは知らない。メイクを直せ、と言われる真意を。
どうせ会社に行って帰ってご飯食べて寝るだけの生活を繰り返す私にその真意を知る由もない。
途中、取り急ぎ、薬局の試供品コーナーにてメイクを直す私の姿があることを。
しょうこは知らない。

しょうこは知らない。薄いタイツを履けと言われるその真意を。
ボディラインを見せるということがどんなに大事で、そうすることによって芽生える感情を。
しょうこは知らない。

しょうこは知らない。トップスはもっと明るめの色を選べと言われるその真意を。
大丈夫、誰かのために服を取捨選択するとき、未来のしょうこは明るめの色を取捨選択する。
しょうこは知らない。まだ知らなくていい。ただそのときの感情に身を任せればいい。

しょうこは知らない。もっと口角を上げる練習をしたほうがいいと言われるその真意を。
私は笑った顔より真面目な顔のほうがかわいいこと私は知っていたが。
しょうこは知らない。知らなくていい。どうでもいい。その人の前ではまた違う顔を見せるのだから。

しょうこは知らない。その真意を。
「言っとくけど、俺は絶対にお前を抱かないからね」なんて男友達に言われたことの。
しょうこは知らない。知らなくていい。その人に抱かれるわけでもないんだから。 

しょうこは知らない。まだ知らない。
彼が喜ぶ下着の色についてまだ知らない、知らない。
しょうこは迷っている。

しょうこは知らない。未来を。
いきなり、突然に、落雷のごとく、来る、この、未来を。

かつてのしょうこは知らない。
まだ知らなくていい。

今のしょうこが楽しければそれでいい。