アイドルになれないなら死にたい

東京ドブ川ストーリー

わたしのかわいいぜんぶあげる

ねえ、知ってる?私って意外とおっぱい大きいし形もすごく綺麗なの。
あと料理だってできるし、掃除も好きなの。整理整頓だって得意だし。

ネイルもがんばってるし、虫歯もないし、歯のクリーニングだって3か月に1度行ってるのよ。

仕事も好きだし、勤務態度も真面目だから上司からの信頼も厚いからよく飲みに連れて行ってもらっているの。
確かに安月給だからあまり行きたいところには行けないかもしれないけど、その分おいしい手料理振る舞うよ。

お酒だってすごく強いし、楽しませる自信もあるよ。
そりゃあたまに寝ゲロすることもあったけど、最近は自制できるようになったんだから。

アカデミックな話からAVの売れ筋商品の話もできるし、音楽の話だって本当幅広くできるよ。
よく人からは「今までこんなこと誰にも言ったことなかったのに」とか言われるくらい、聞き上手なんだよ。

ただあなたが知らないだけ。私がちょっと照れ屋だから、茶化してごごまかしちゃうだけ。
ただあなたに届かないだけ。

本当は私にはかわいい面がたくさんあって、十一面菩薩像より多くの面を持っているんだから。

ねえ、わたしのかわいいぜんぶあげるから。愛してよ。
ねえ、わたしのかわいいぜんぶあげる。あなたにあげるから。

送辞

寒さの厳しかった冬も、ようやく過ぎました。柔らかな日差しの中、草木も新芽を吹き出そうとしています。
このなんとも素晴らしい良き日に、あなたは結婚します。

これまで私はあなたを頼りにし、憧れ、馬鹿な話で笑いあいながら、ともに成長してきたのだと思っております。
あなたのことを考えると、今までの思い出が次々と浮かんできます。

転げまわるほど笑いあった日々はとても懐かしく、今でも私を笑顔にしてくれます。
そして時にあなたは励まし、導いても下さいました。
仕事のこと、家族のこと、友達に絶好されたこと、いろいろと相談にのってくれてありがとうございました。

今後新しい環境で困難に直面することもあるかと思います。
すでにいろいろな問題に直面していることもあるはずです。
しかし、これまで様々な困難を乗り越え、私をここまで成長させてくれたあなたのことなので、きっと力強く前に進まれることと信じております。

あなたの新たな一歩が光が輝き、未来まで明るく照らされますよう、心からお祈りしております。
意外と論理的で、果敢で、そして心優しいあなたのその姿を心に焼き付け、
私はまだここで、超然としていようと思います。

しょうこは知らない

しょうこは知らない。未来を。
本当の、未来を。

しょうこは知らない。かわいいって言われて、自分に自信のないあなたは、私のどこを見て言っているのだろうと、疑う。
本当の自分をわかってくれていないなんてバカなことを思っている。
しょうこは知らない。かわいいって言葉に別になんの意味もないことであっても、好きな人から言われるとどんなに嬉しいことかを。
しょうこは知らない。

しょうこは知らない。髪をのばせ、と言われる真意を。
髪を伸ばすことによって芽生えるアレンジ力やトリートメント能力からはぐくまれる女子力があったということを。
しょうこは知らない。

しょうこは知らない。メイクを直せ、と言われる真意を。
どうせ会社に行って帰ってご飯食べて寝るだけの生活を繰り返す私にその真意を知る由もない。
途中、取り急ぎ、薬局の試供品コーナーにてメイクを直す私の姿があることを。
しょうこは知らない。

しょうこは知らない。薄いタイツを履けと言われるその真意を。
ボディラインを見せるということがどんなに大事で、そうすることによって芽生える感情を。
しょうこは知らない。

しょうこは知らない。トップスはもっと明るめの色を選べと言われるその真意を。
大丈夫、誰かのために服を取捨選択するとき、未来のしょうこは明るめの色を取捨選択する。
しょうこは知らない。まだ知らなくていい。ただそのときの感情に身を任せればいい。

しょうこは知らない。もっと口角を上げる練習をしたほうがいいと言われるその真意を。
私は笑った顔より真面目な顔のほうがかわいいこと私は知っていたが。
しょうこは知らない。知らなくていい。どうでもいい。その人の前ではまた違う顔を見せるのだから。

しょうこは知らない。その真意を。
「言っとくけど、俺は絶対にお前を抱かないからね」なんて男友達に言われたことの。
しょうこは知らない。知らなくていい。その人に抱かれるわけでもないんだから。 

しょうこは知らない。まだ知らない。
彼が喜ぶ下着の色についてまだ知らない、知らない。
しょうこは迷っている。

しょうこは知らない。未来を。
いきなり、突然に、落雷のごとく、来る、この、未来を。

かつてのしょうこは知らない。
まだ知らなくていい。

今のしょうこが楽しければそれでいい。

わたしのしたいしたい

私の中にうず高く降り積もっていく”なれなかった”私”の”死体”。
あれをしたかった
これをしたっかた
私のしたい死体たち。
わたしのしたいしたい。

中学生のとき
今から考えるとあまりに短い帰り道を一緒に歩きたかった。
ちょっと遠出して池袋なんかで映画を見たかった。ジュース高いねって、ポップコーンも高いよって、でも買っちゃおうって言いあいたかった。
手をつなぐということでさえ一大事でキスなんかした日にはそりゃあ他の女子に言いふらしたかった

高校生のとき
お金がないけど、家にもいれないからって、ファミレスで延々しゃべってまだしゃべり足りなくってそのあと夜の公園でいちゃつきたかった。
地域で一番栄えた駅に行って一緒にショッピングをしたかった。こっちのほうがいい、これもいい、でもお金ないから見るだけねって。
そのあとクレープとか食べたかった。
なんてことのない日にお揃いのだっさいキーホルダー買いたかった。これ、一生大事にするねってEAST BOYの通学カバンにつけたかった。

大学生のとき
仲良く大学構内を歩いて、周りからみられるのも気にしないで公認のカップルになりたかった。
彼の一人暮らしの家に入り浸って、また泊まったの?本当仲いいねえって友達に言われたかった。
バイトがんばったから今月余裕あるし、水族館にも行こう、おいしいものを食べに行こう。占いにも行こう、そういいあいたかった。

社会人になってから
仕事でなかなか会えない日々を潜り抜けて、会えないのは辛いよなんて泣き言言って、じゃあ一緒に暮らそっかって抱きしめあいたかった。
記念日にはレストランでちょっとお高めの食事をして、プレゼントは内緒じゃなくて一緒に買いに行きたかった。

わたしのしたいしたい。
私はわたしのしたいを、海に沈める埋める。
私の中の海に深く、沈める。

わたしのしたい死体たち。かわいい死体たち。
いつかな、いつかな、って
返り咲くかわかんないような枯れた花に水をやり続けるように。
たまに揺り動かして起こしてあげなきゃ、どんどん腐っていくから、
そうだここも行きたかったんだよなってガイド誌を読みながら同調してやる。
ぷかぷかと浮かぶ私の死体たち。
できなかった、なれなかった私という死体たち。

私のしたいしたい。かわいいかわいいしたいしたいたち。

そして9月。
夏の日差しを浴びて温まった私の海の中。
私のしたかったしたいたちが蘇り始める。色を付け出す。いっせいに泳ぎだす。
私のしたいしたいたちは、私になる。私の中で泳ぎだす。

いい匂いをさせよう

私は根に持つタイプである。
思い返してみたら6年ほど前の話だ。
「しょうこなんか犬の匂いがする」
と、好きな男の子の前で女友達に言われたのである。
その子にはそれ以来会っていない気がする。

もっと思い返してみれば10年前に大学の先生から
「バスタオルが臭いんじゃない?」とみんなの前でも言われた。

確かに私はいじられキャラである。そんなことを言われても基本へらへらしているのである。
でも心の中は地獄の業火ばりの怒りと見返してやろう精神であふれかえっていた。

敬愛する片桐仁も言っていた。
「いくらもののけ姫がかわいいくても、獣臭かったらドン引く」と。

「匂いは大切」という言葉に対して、
なんの効能があるのかわからない温泉、何に効くのかわからない神社の名前だけ書かれたお守り、
のような、そんな感じのイメージしかもっていなかった。

しかし匂いは大切。というよりかは臭いのはだめだ。

私が地獄の業火に焼かれながら立ち上がったのは、
かつての言葉からずいぶんと経ってからであった。

①私はまず若い女の子に絶大な人気を誇るSAVONへ行った。そして一番気に入ったジャスミンの香りのスクラブを買った。
死海の塩が使われている贅沢なバスソルト。私は使いきった。そして次にシーズン限定のも買った。

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でも、そのバスソルトはうるおい成分として油分が入っている。確かに潤う。そしてお風呂の床も潤わす。
私はお風呂で盛大に転んだ。

②もらったアロマキャンドルが変な減り方をしてしまったから細かく刻んで湯銭して
 新たなアロマキャンドルを精製した。
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我ながらかわいくできたと思ったが、
SNSに写真を投稿したら「ファンシーなゲロ」と言われた。
言いえて妙とはこのことだなと妙に納得してしまった。あと、火が付かなかった。

こうやって私はがんばった分だけ、自分を知れた。
私はちょっと馬鹿で、ちょっと不器用だと知れた。
もういい匂いはしなくたってそれだけで十分だと、自分に言い聞かせた。